おかげさまで5周年です

結局、開業以来ブログを綴るどころではないまま5年が経ちました。おかげさまで「それどころではない」程忙しく過ごせました。心より感謝を申し上げます。ありがとうございます。

自身のためにもこの5年を振り返りながら、店主の気持ちを綴ってみようと思います。

5年分ですので、かなり長いです。重い所もございます。

 

開業前なのにいきなり躓く

店舗造作中に、造作に関わる重要人物の逆鱗に触れてしまい、失うことになってしまいました。お金がなくて床のタイルを自分で貼ったのですが、床に這いつくばりながら、事業を始めるというのは落ち込む時間は許されず、前に進むしかないことを理解した出来事でした。その人物は友人でした。店舗造作の依頼は初めてだったとはいえ、要領を得ていなかった店主の落ち度。謝罪は、もはや店主の自己満足にしかならないでしょう。この先の人生で、また接点があるのでしょうか。もし機会に恵まれたなら、多少は当時よりも上手に振る舞えるのか、やっぱり成長できてない自分に気づくだけなのか、分からないです。ただ、その後、世の中が新型コロナ感染症拡大の影響を受け、開業費を抑えておいて良かったと痛感することに繋がります。

開業後もやっぱり躓く

「実力不足」に尽きます。もちろん承知の上での開業でしたが、やはり突きつけられるとキツかったのが正直なところ。開業前に期待を寄せてくれていた人の半分以上は離れて行きました。かと言って、急激に成長できる訳もなく、まずは、そんな店主のもとにお越しくださった目の前のお客様に楽しんで頂くためにできることを実行するのみ。店主の考えている「ワインを飲む楽しさ」をお届けしたいという理想はあるものの、お客様の求めていることを丁寧にヒアリングすることを優先。店主から「どんなワインを飲みたいですか?」と聞かれても、それを言葉にするのは難しいもの。雑談であれば、リラックスしてお客様自身の言葉で話すことができると思い、普段の生活スタイルや、旅行の行き先、好きな食べ物、愛飲しているコーヒーやお茶のことなどを細部まで伺い、ワインの嗜好のヒントを掴むようにしました。

ところが、融資の6ヶ月の据置期間終了で返済が始まると、現金の減る速さに驚いて、お客様に泣きついたこともありました。なりふり構ってられない、実力不足を恥ずかしがってる場合ではないと実感し、かねてより計画していた「ワイン講座」と「ワインイベント」を開始しました。

毎回綱渡りの「ワイン講座」と「ワインイベント」

限られた2時間の開催時間にテーマのワインを注ぎ、料理を用意し、そしてワインについて話すことの難しさに青ざめました。開業前に行っていたワイン講座では、料理は別の人に用意して頂くパターンでしたので、全てを店主ひとりでこなすのは初めてだったのです。特に、調理時の集中から、講座的内容の話を始める時の切り替えに、かなりの負担を感じました。脳内の集中場所の切り替えがうまくいかず、更に、うまくいかないことに焦り、ますますよろしくない方向へ。拙い調理技術のため、自信がなく、どうしてもそこに意識が向かってしまい、バランスを崩してました。

参加者ひとりだったこともありましたが、徐々に毎回満席の状況へ定着していくのが嬉しく、なんだかんだで開催は20回を超えるまでに。現在は、新型コロナ感染症拡大により、全国への緊急事態の発令から休止のままです。いまだに、今後の方向性を見出すことができていないままです。それほど、世の中の有り様が変わってきたと感じています。

誰もが影響を受けた新型コロナ感染症拡大によって得た2つのこと

ひとつは、調理技術の向上。まさかの「禁酒令」まで発令され、思わぬ経験でした。時には「妖精」の言うことに耳を貸さず、食事とワインを求めて行き場を失った人達を受け入れたおかげで、とにかく何かの料理をつくり続けました。その結果、調理技術が劇的に向上しました。常連さんからは「初期に比べて、ホント美味しくなったよね」と声を掛けて貰えるように。お客様からの当店への愛しか感じません。初期からずっと通い続けてくれているのですから。

加えて、食材を求めていたら、生産者との新たな出会いに恵まれ、特に調理が苦手だった魚類の提供もできるようになりました。クロマグロの刺身、シメサバのカルパッチョ、ブイヤベース風の魚介スープなど。

肉類についても、国内産の鴨肉や鹿肉をローストしたり、塊肉の煮込をご用意したら、常連さんに「旨い。一体、どこに向かっているのか、これ以上どうするつもりなのか」と仰って頂き、積み重ねの機会を与えられたことに感謝しかありません。

ふたつめは、ワインの店頭販売を始めたこと。ワインの店頭販売を行うためには、税務署に申請をして「酒類販売小売免許」を取得する必要があります。原則、飲食店が取得するにはハードルが高い免許です。たまたま条件をクリアしていたことと、新型コロナ感染症拡大の影響で、そのハードルがやや緩和したことが重なりました。周りの信頼する人達からは、膨大な仕事量をこなすことになるため、店主を気遣う思いから反対されましたが、チャンスに思えたのです。

新型コロナ感染症拡大の影響で、飲食業界では事業転換をするべきだとの声が大きかったです。かといって店主がワインから離れることは考えられませんでした。そもそも他にできることはないですし。まずは行動して免許を取得。考えるのはそれから。税務署の担当職員さんが協力的だったのが印象的でした。

めでたく免許を取得し、当店と直接取引を契約してくれる輸入元さんが現れました。これは、本当に本当に幸運なことでした。この輸入元さんがなければ、免許を持っている「だけ」になってしまいます。

一方で、店主がワインの店頭販売を始めることで難しくなるのが、それまでお付き合いのあったの酒屋さんです。重い身体を引きずるように、お世話になった酒屋さんへ赴き、事情を説明して回りました。酒屋さんも苦しい状況であることは承知のうえで、許して貰えるなどとは思わず。その後、不義理をしたにも関わらず、それぞれの酒屋さんが当店へ顔を出して下さって、その懐の深さに言葉もない思いでした。

今度は円安、そして自身の体力

通常営業をこなしつつ、ワインの店頭販売を効率的に行えるように店舗の内装工事を計画していましたが、今年になって白紙にしました。焦らず、お寄せ頂いたご依頼に着実にお応えする…ことしか思いつかないです。おかげさまで、ワインと料理のペアリングのご依頼が増え、まるで料理人になったかのようです。思ってもなかった展開で、そもそも料理は苦手で、店主にはプレッシャーですが、他にはないペアリングのご体験を楽しんで頂けるかなと自負していします。

これからは、ますます予測のつかないことが予測されます。いつでも、どのようにでも動けるように身軽に準備しておくのが良いかなと考えています。だから、あまり方向性を決めずに、自身の体力を見極めながら、VINOSITÉを取り巻く人達と何かできたらいいな。このブログも読みたい人が読んでくれたら充分と思い、読みやすさは考えず、ありのままに綴りました。

2022年11月中に開催しました5周年祭のイベントは、それぞれのテーマで情熱的な人達を招き、その熱さに触れ、よりワインの経験値を皆さんと深めることができました。とっても楽しかったです。

それでは、お店のカウンターにてお会いしましょう。

2022年12月吉日 店主 北野友栄